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遺留分とは?近しい相続人のための「最低補償」に関する基本知識をわかりやすく解説

更新日:2025.12.23 コラム

「父が亡くなって遺言書が出てきたけれど、すべて兄に相続させると書いてあった」「長男だけが多額の生前贈与を受けていて、自分には何も残らない」――相続の場面で、このような不安や不公平感を抱く方は少なくありません。

そんなとき、あなたの「最低限の遺産取得分」を守ってくれる制度があります。それが「遺留分(いりゅうぶん)」です。

この記事では、遺留分とは何か、誰がどれくらい受け取れるのか、侵害された場合にどうすればいいのか、そしてトラブルを防ぐための対策まで解説します。

遺留分とは?

遺留分とは、一定の相続人に対して、法律で保障された「最低限の相続の取り分」のことです。

たとえ遺言書で「すべての財産を特定の人に相続させる」と書かれていても、遺留分を持つ相続人は、その最低限の遺産取得分を請求する権利があります。これは、残された家族の生活を守り、相続における極端な不公平を防ぐために設けられた制度です。

遺留分が保障されている相続人の範囲

遺留分が認められているのは、次の相続人です。

  • 配偶者(夫または妻)
  • (亡くなった方の子ども。子が既に亡くなっている場合は孫などの直系卑属)
  • 直系尊属(父母や祖父母。ただし子がいない場合のみ)

兄弟姉妹には遺留分がない

注意したいのは、兄弟姉妹には遺留分がないという点です。たとえば、亡くなった方に配偶者も子もおらず、兄弟姉妹だけが相続人となる場合、遺言書で「全財産を友人に遺贈する」と書かれていても、兄弟姉妹は遺留分を請求することができません。

遺留分の割合(計算の基本)

では、具体的にどれくらいの割合が遺留分として保障されているのでしょうか。

基本的な考え方
遺留分の総額は、原則として法定相続分の2分の1です(ただし、直系尊属のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1)。

この「遺留分の総額」を、遺留分を持つ相続人の間で、法定相続分の割合に応じて分けることになります。

具体的なパターン例

配偶者と子ども2人が相続人の場合

  • 配偶者の法定相続分:2分の1
  • 子ども全体の法定相続分:2分の1(子ども1人あたり4分の1ずつ)
  • 遺留分の総額:法定相続分の2分の1 = 遺産全体の2分の1
  • 配偶者の遺留分:遺産全体の4分の1(2分の1 × 2分の1)
  • 子ども1人あたりの遺留分:遺産全体の8分の1(4分の1 × 2分の1)

配偶者のみが相続人の場合

  • 配偶者の法定相続分:すべて
  • 配偶者の遺留分:遺産全体の2分の1

子のみ(配偶者なし、子ども2人)が相続人の場合

  • 子ども全体の法定相続分:すべて
  • 遺留分の総額:遺産全体の2分の1
  • 子ども1人あたりの遺留分:遺産全体の4分の1

親のみが相続人の場合(子も配偶者もいない)

  • 親の法定相続分:すべて
  • 親の遺留分:遺産全体の3分の1(直系尊属のみの場合は特例)

このように、相続人の構成によって遺留分の割合は変わります。「自分の遺留分はいくらになるのか」を知りたい場合は、まず相続人が誰なのかを確認し、その上で計算することになります。

遺留分が侵害されるケース

上記の遺留分の遺産ももらえない状況を遺留分が侵害されているといいます。

では、具体的に、どのような場合に遺留分が侵害されるのでしょうか。

ケース1:遺言書で特定の人だけが多く受け取りすぎている
最も典型的なのは、遺言書で「すべての財産を長男に」「愛人にすべて遺贈する」など、特定の人に偏った内容が書かれている場合です。他の相続人の遺留分を侵害している可能性があります。

ケース2:生前贈与が多すぎる場合(特に偏った贈与)
亡くなる前に、特定の相続人や第三者に多額の贈与をしていた場合も、遺留分の計算に影響します。相続開始前の一定期間内の贈与は、遺留分の計算対象となる財産に加算されます。

例えば、父が長男にだけ多額の生前贈与をしていて、亡くなった時点での遺産が少ない場合でも、その生前贈与を考慮して遺留分が計算されることがあります。

遺留分侵害額請求の流れ

遺留分が侵害されていると感じたら、どうすればいいのでしょうか。

遺留分侵害額請求とは?

遺留分が侵害されている場合、相続人は、多く財産を受け取った人(受遺者や受贈者)に対して、金銭で遺留分に相当する額を支払うよう請求することができます。これを「遺留分侵害額請求」といいます(令和元年の民法改正で、以前の「遺留分減殺請求」から名称と仕組みが変わりました)。

請求期限

遺留分侵害額請求には、厳格な期限があります。

  • 相続の開始と遺留分の侵害を知った時から1年以内
  • または、相続開始から10年以内(侵害を知らなかった場合でも)

この期限を過ぎると、遺留分を請求する権利が消滅してしまいます。「いつか請求しよう」と先延ばしにしていると、権利を失ってしまう可能性があるため、早めの対応が大切です。

請求の手順

1:内容証明郵便で請求
まず、遺留分を侵害している相手に対して、「遺留分侵害額請求をします」という意思表示を行います。通常は、内容証明郵便で通知します。これにより、請求の事実と日付を証拠として残せます。

2:話し合い(交渉)
内容証明を送った後、相手と話し合いを行います。お互いの主張を確認し、合意できれば、支払い方法や金額を決めて合意書を作成します。

3:調停・裁判
話し合いで解決できない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。調停でも合意に至らなければ、最終的には訴訟(裁判)で解決することになります。

話し合いが基本
ただし、いきなり争うのではなく、まずは冷静に話し合うことが大切です。遺留分の問題は、金額だけでなく、家族の感情が複雑に絡み合っています。できるだけ穏やかに解決できるよう、専門家を間に入れながら進めることをおすすめします。

トラブルを防ぐためにできる対策

遺留分をめぐるトラブルは、事前の対策で防げることも多いです。

遺言書を作成するときの配慮

遺言書を作成する際は、遺留分を考慮した内容にすることが重要です。「すべてを特定の人に」という極端な内容ではなく、他の相続人にも最低限の配慮をした分け方にすることで、後々のトラブルを避けられます。

また、遺言書に「なぜこのような分け方にしたのか」という理由を付記することも有効です。付言事項として想いを書き残すことで、相続人の理解を得やすくなります。

遺留分侵害額請求は、相続人が主張することによって生じる権利であり、相続人が故人の意図を汲み請求しないこともあります。

家族間の情報共有

生前に、財産の状況や相続の希望について、家族で話し合っておくことも大切です。「なぜ長男に多く渡すのか」「生前贈与の理由」などを説明しておけば、相続が発生したときに「不公平だ」という不満が生まれにくくなります。

生前贈与のバランス

特定の子どもだけに多額の生前贈与をする場合は、他の子どもへの配慮も必要です。贈与のバランスを考えるか、遺言書で調整するなどの工夫をしましょう。

まとめ

遺留分は、相続人の最低限の遺産取得分を定めた制度です。

  • 配偶者、子、直系尊属(子がいない場合)には遺留分がある
  • 兄弟姉妹には遺留分はない
  • 遺留分の割合は、原則として法定相続分の2分の1
  • 遺言書や生前贈与で遺留分が侵害されている場合、遺留分侵害額請求ができる
  • 請求期限は、相続開始と侵害を知った時から1年以内

「自分は遺留分の対象になるのか?」「遺留分はいくらなのか?」「どう請求すればいいのか?」――こうした疑問は、早めに確認することが重要です。期限を過ぎてしまうと、主張する権利を失ってしまうからです。

ただし、遺留分の請求は、家族関係に影響を与える可能性もあります。できるだけ話し合いで解決できるよう、冷静に対応することが大切です。

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