更新日:2025.11.20 コラム
「財産を次の世代へ引き継ぐとき、相続と贈与のどちらを選べば良いのだろう」――このような悩みを抱えている方は少なくありません。どちらも大切な財産を家族へつなぐ方法ですが、税金の負担や手続きの流れが異なるため、迷うことも多いかと思います。
特に、節税や生前対策を考え始めた方にとっては、「今のうちに贈与しておくべきか」「相続まで待った方が良いのか」という判断は重要です。それぞれの特徴を理解すれば、ご自身の状況に合った選択が見えてきます。
この記事では、相続と贈与の基本的な違いから、税金の仕組み、そしてどんな場合にどちらが向いているのかまで、わかりやすく解説します。
相続と贈与の最も大きな違いは、財産を渡すタイミングです。
相続は、財産を持っている方が亡くなった後に、その財産を家族や親族が引き継ぐことを指します。亡くなった方(被相続人)の遺産を、法律で定められた相続人(配偶者、子、親など)が受け取ります。遺言書がある場合は、その内容に従って分配されますが、遺言書がない場合は、相続人間の協議または法定相続分に基づいて分けることになります。
一方、贈与は財産を持っている方が生きている間に、自分の意思で特定の人に財産を渡すことです。「生前贈与」とも呼ばれ、財産を渡す側(贈与者)と受け取る側(受贈者)の双方が合意することで成立します。
贈与は、渡すタイミングも金額も自由に決められるため、計画的に財産を移転できるという特徴があります。
相続と贈与では、かかる税金の種類と仕組みが異なります。
相続が発生すると、遺産の総額に対して「相続税」が課税されます。ただし、すべての相続に相続税がかかるわけではありません。基礎控除という非課税枠があり、遺産総額がこの金額以下であれば相続税はかかりません。
基礎控除額の計算式は次の通りです。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例えば、相続人が配偶者と子ども2人の場合、基礎控除額は3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円となります。遺産総額が4,800万円以下であれば、相続税は発生しません。
贈与には「贈与税」がかかります。ただし、贈与にも非課税枠があり、1年間(1月1日から12月31日まで)に受け取った贈与の合計額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。これを「暦年贈与」といいます。
逆に言えば、毎年110万円ずつ贈与を続けることで、長期的に見れば大きな金額を無税で移転できる可能性があります。
贈与には、もう一つ「相続時精算課税制度」という選択肢があります。これは、60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫への贈与について選択できる制度です。
この制度を選ぶと、累計2,500万円まで贈与税がかからず、贈与時点では税負担なく財産を渡すことができます。ただし、贈与者が亡くなったときには、これまで贈与した財産を相続財産に加算して相続税を計算することになります。
メリットは、まとまった金額を早い段階で子や孫に渡せること。例えば、住宅購入資金や事業資金など、若い世代が「今」必要としているタイミングで支援できます。
注意点は、一度選択すると撤回ができないことや、相続時精算課税の対象とした財産については小規模宅地の特例等の適用はできないこと、将来的に相続税がかかる可能性があることです。さらに、不動産など値上がりが期待できる財産の場合、贈与時の価格で相続財産に加算されるため、結果的に有利になることもあります。
どの方法を選ぶかは、財産の内容や家族の状況によって異なります。
では、どのような場合に贈与が向いているのでしょうか。
「子どもが家を建てるときに援助したい」「孫の教育資金を支援したい」など、財産の使い道を自分の目で確認したい方には贈与が適しています。必要なタイミングで確実に渡せるという安心感があります。
相続では法定相続人全員に権利がありますが、贈与なら特定の人だけに財産を渡すことができます。「長男の事業を支援したい」など、特定の目的がある場合に有効です。
認知症などで判断能力が低下すると、贈与契約ができなくなります。元気なうちに計画的に財産を移転しておきたい方には、贈与が向いています。
ただし、贈与した財産は原則として取り戻せないため、ご自身の生活資金を確保した上で行うことが大切です。
一方で、相続の方が適している場合もあります。
複数の子どもに平等に財産を残したい場合、相続で対応する方が明確です。遺言書で分割方法を示しておけば、亡くなった後も意思を伝えることができます。生前に特定の人だけに贈与すると、他の相続人との間でバランスを欠く可能性があります。
生活費や介護費用など、今後の支出が不透明な場合、財産を手元に残しておく方が安心です。相続であれば、生前に財産を手放す必要がなく、自分の生活を優先できます。
基礎控除額の範囲内であれば相続税はかかりません。このような場合、無理に贈与する必要はなく、相続で対応する方がシンプルです。
不動産や事業用資産など、複雑な財産がある場合、生前に少しずつ贈与するよりも、相続時に一括して整理する方が手続きがスムーズなこともあります。
相続は、時期を選べないというデメリットがありますが、生前に財産を減らさず、安心して生活できるというメリットがあります。
財産の額、家族構成、相続人の年齢や経済状況、将来の生活設計など、さまざまな要素によって最適な選択は異なります。「この方法が絶対に正しい」という答えはありません。
実は、相続と贈与は「どちらか一方」を選ぶ必要はありません。例えば、毎年少しずつ贈与しながら、主な財産は相続で引き継ぐという組み合わせも可能です。住宅資金は贈与で早めに渡し、残りは相続で、という柔軟な対応もできます。
「まだ早い」と思うかもしれませんが、相続対策は早めに考えるほど選択肢が広がります。認知症などで判断能力が低下してからでは、贈与も遺言書の作成もできなくなります。元気なうちに家族で話し合い、専門家に相談しながら計画を立てることが大切です。
また、税制は頻繁に改正されます。最新の情報に基づいて判断するためにも、専門家の知識を活用することをおすすめします。
相続と贈与には、それぞれ異なる特徴があります。
どちらを選ぶかは、家族構成や財産の状況、ご自身の想いによって変わります。一つの方法に絞る必要はなく、両方を組み合わせることもできます。
相続マルシェでは、税理士・弁護士・司法書士と提携し、お客様の状況に応じた最適なご提案をいたします。事前のご相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。
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