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相続した土地を手放したい?「相続土地国庫帰属制度」とは

更新日:2025.12.28 コラム

高齢化や人口減少により、特に地方では空き家や管理されない土地が社会問題となっています。売却しようにも買い手がつかず、かといって放置すれば雑草が生い茂り、近隣に迷惑をかける可能性もあります。相続した土地が、想定外の負担になってしまうケースは少なくありません。

そんな中、2023年に始まった「相続土地国庫帰属制度」という新しい仕組みが注目を集めています。これは、一定の要件を満たせば、相続した土地を国に引き取ってもらえるという制度です。

この記事では、相続土地国庫帰属制度とは何か、どんな土地が対象なのか、手続きの流れ、メリット・デメリットまで解説します。

相続土地国庫帰属制度とは?

相続土地国庫帰属制度は、2023年4月27日に始まった新しい制度です。相続や遺贈によって取得した土地について、一定の要件を満たせば、土地の所有権を国に引き取ってもらうことができます。

制度が作られた背景

日本全国で、相続されたものの管理されない土地が増加し、所有者不明土地や空き地の問題が深刻化しています。こうした土地は、周辺環境の悪化、公共事業への支障、災害時のリスクなど、様々な問題を引き起こします。

この制度は、相続した土地を手放したい人の負担を軽減すると同時に、管理放棄される土地を減らすことを目的として創設されました。

ただし、”誰でも使えるわけではない”

ただし、この制度は万能ではありません。申請すれば必ず引き取ってもらえるわけではなく、法務局による厳格な審査があります。また、一定の要件を満たす土地でなければ申請自体ができません。さらに、承認されるためには「負担金」の納付も必要です。

「とりあえず国に押し付けられる」という制度ではなく、「適切に管理された土地で、一定の条件を満たす場合に限り、国が引き取る」という慎重な仕組みになっています。

制度を利用できる土地・できない土地

では、具体的にどのような土地が対象になり、どのような土地が対象外なのでしょうか。

利用できる土地の例

基本的には、以下のような土地が対象となります。

  • 更地(建物が建っていない土地)
  • 比較的小規模な土地
  • 境界が明確で、権利関係がシンプルな土地

例えば、相続した山林で使い道がない、遠方の宅地で管理ができない、といったケースでは、この制度の利用を検討できる可能性があります。

利用できない土地の例

一方で、次のような土地は申請できない、または承認されません。

  1. 建物が残っている土地
    建物が建っている場合は申請できません。国に引き取ってもらうためには、事前に建物を解体し、更地にする必要があります。解体費用は所有者の負担です。
  2. 崖地や崩落の危険がある土地
    崖がある土地、地盤が不安定で崩落の危険がある土地など、管理に過分な費用や労力がかかる土地は対象外です。
  3. 境界が不明確な土地
    隣地との境界がはっきりしていない土地は申請できません。境界を明確にするための測量や、隣地所有者との合意が必要です。
  4. 他人が使用している土地
    第三者が占有している、通路として使われている、賃貸借契約があるなど、他人の権利が設定されている土地は対象外です。
  5. 抵当権などの担保権が設定されている土地
    住宅ローンなどの担保として抵当権が設定されている土地は、申請できません。
  6. 土壌汚染がある土地
    有害物質による土壌汚染がある、または地中に廃棄物が埋まっている土地は対象外です。
  7. その他、管理や処分が困難な土地
    樹木や竹が密集しすぎている、池沼がある、など、通常の管理・処分が著しく困難な土地は承認されません。

審査は厳しい

このように、対象となる土地の要件は非常に細かく、審査は厳格です。実際には、申請しても承認されないケースも多くあります。「少しでも問題があれば認められない」というイメージを持っておいた方が良いでしょう。

制度利用の手続きの流れ

相続土地国庫帰属制度を利用するには、どのような手続きが必要なのでしょうか。

1. 事前準備
まず、土地が制度の要件を満たしているかを確認します。建物がある場合は解体し、境界が不明確な場合は測量を行うなど、必要な準備を整えます。

2. 申請(法務局へ)
管轄の法務局に対して、国庫帰属の承認申請を行います。申請時には審査手数料(土地1筆あたり14,000円)が必要です。※別途負担金が発生します。

必要書類の例

  • 申請書
  • 土地の登記事項証明書
  • 地図(公図)
  • 境界を明らかにする資料(測量図など)
  • 土地の状況を示す写真
  • 相続を証明する書類(戸籍謄本など)
  • その他、土地の状況に応じた資料

境界確認資料や測量図など、専門的な書類が必要になるため、測量士や土地家屋調査士の協力が必要になることもあります。

3. 法務局による審査
法務局の職員が、書類審査と現地調査を行います。土地の状況が要件を満たしているか、管理に過分な費用がかからないかなどを確認します。

審査には数ヶ月かかることがあります。申請から承認まで、半年以上かかるケースも珍しくありません。

4. 承認・負担金の納付
審査に通ると、承認の通知が届きます。その後、「負担金」を納付する必要があります。負担金の額は土地の面積や性質、固定資産税等の課税の有無によって異なり、数十万円で済む場合もあれば、100万円を超える場合もあります。

5. 国への所有権移転
負担金を納付すると、土地の所有権が国に移転し、手続きが完了します。

どの専門家に相談するとスムーズか

この制度の利用には、法律的な知識や測量などの専門技術が必要です。司法書士、土地家屋調査士、弁護士などに相談することで、スムーズに手続きを進められます。特に、境界の確定や測量が必要な場合は、土地家屋調査士の協力が不可欠です。

制度のメリット

相続土地国庫帰属制度には、次のようなメリットがあります。

土地管理の負担から解放される

最も大きなメリットは、土地の管理から完全に解放されることです。草刈りや見回りなど、日常的な管理の手間がなくなります。

固定資産税の支払いが不要になる

国に所有権が移転すれば、翌年度からは固定資産税を支払う必要がなくなります。毎年の税負担から解放されるのは、経済的にも大きなメリットです。

境界トラブルや近隣問題の心配がなくなる

放置された土地は、雑草が生い茂ったり、不法投棄の対象になったりして、近隣とのトラブルの原因になることがあります。国に引き取ってもらえば、こうした心配もなくなります。

相続人の精神的負担が軽減される

「管理できない土地をどうすればいいのか」という悩みから解放され、精神的な負担が大きく軽減されます。

遠方の土地でも利用可能

遠方にある土地で、現地に行くことが困難な場合でも、書類を整えれば申請が可能です。

制度のデメリット・注意点

メリットがある一方で、デメリットや注意点もしっかり理解しておく必要があります。

申請が通らないケースが多い

前述の通り、要件が厳しく、審査も厳格です。実際には、申請しても承認されないケースが少なくありません。「申請すれば必ず引き取ってもらえる」という期待はしない方が良いでしょう。

承認時に「負担金」が必要

国に引き取ってもらうとはいえ、無料ではありません。負担金として、宅地では20万円程度、面積が大きい土地や山林では数十万円から、場合によっては100万円を超えることもあります。事前に負担金の見積もりを確認しておくことが大切です。

建物の解体・整地費用は自己負担

建物が建っている場合、解体して更地にする必要があり、その費用は自己負担です。解体費用は建物の規模にもよりますが、数十万円から数百万円かかることもあります。

また、境界が不明確な場合の測量費用、土地を適切な状態にするための整地費用なども、すべて所有者の負担です。

相続人間で意見の調整が必要

土地が複数の相続人の共有になっている場合、全員の同意がなければ申請できません。「自分は手放したいが、他の相続人は反対」というケースでは、制度を利用できません。

制度の要件が複雑で、自己判断が危険

どの土地が対象になるのか、どのような準備が必要なのかは、非常に複雑です。自己判断で進めると、多額の費用をかけて準備したのに申請が通らない、ということにもなりかねません。必ず専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

相続土地国庫帰属制度は、相続した土地を管理できない場合の有力な選択肢です。

  • 2023年に始まった新しい制度
  • 一定の要件を満たせば、土地を国に引き取ってもらえる
  • 土地管理の負担や固定資産税から解放される

ただし、

  • 要件が厳しく、審査も厳格
  • 負担金(数十万円〜)が必要
  • 建物の解体や測量などの準備費用は自己負担
  • 申請が通らないケースも多い

という注意点もあります。

この制度を利用できるかどうかは、土地の状況によって大きく異なります。自己判断で進めるのではなく、司法書士、土地家屋調査士、弁護士などの専門家に相談し、事前に利用可否を確認することが重要です。

相続マルシェでは、税理士・弁護士・司法書士と提携し、お客様の状況に応じた最適なご提案をいたします。 事前のご相談は無料です。

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